テアトルアカデミーで、ナレーターの勉強をしています。
発声や滑舌だけでなく、演技、姿勢、歩き方など、身体そのものを使ったレッスンも多く、気がつけば今、2クール目が終わろうとしています。
その中で、最近よく言われるようになった言葉があります。
「笑顔が自然でいいですね」
正直に言えば、これまでの人生で、自分の笑顔を褒められた記憶は、ほとんどありませんでした。
それがこの歳になって、しかも“表現”の場でそう言われるようになるとは、思ってもみなかったことです。
実は以前にも、
「笑顔」をテーマにした記事を書いたことがあります。
187. 笑顔は、心に咲く花のように(花開くような笑顔が、人に安心をもたらす理由)
→ https://coach-mitsuru.com/archives/2894
このときは、笑顔が人の心に与える影響や、「笑う」という言葉を“花が咲く”イメージになぞらえながら、
笑顔の本質について綴りました。
あのときは、まだどこか「頭で理解しようとしていた」感覚だったのかもしれません。
けれど今回、その続きを生きるような出来事が、思いがけず訪れます。
偶然にも、同じ日に重なった出来事
その日、もうひとつ印象的な時間がありました。
会社で企画したマナーアップ研修が、偶然にも同日に行われていたのです。
研修は、敬語や立ち居振る舞いといった内容に入る前、ごく自然な流れで「笑顔」の話から始まりました。
笑顔は、相手を安心させること。
そして、笑顔には、人を元気にする“力”があること。
大きく強調されるわけではなく、さりげなく伝えられたその話が、なぜか心に残りました。
「あなたの笑顔は、人を元気にする」
さらにその日のテアトルアカデミーのレッスンで、講師の方から、こんな言葉をいただきました。
「秋山さんの笑顔は、人を元気にする力があるように感じます」
演技の技術ではなく、その人の在り方そのものに向けられたフィードバック。
コーチとして人と向き合ってきた自分にとって、これ以上ない言葉だと感じ、胸の奥がじんわりと温かくなりました。
会社で聞いた「笑顔力」という言葉と、自分自身が受け取ったこのフィードバックが、同じ日に重なったことに、
小さな必然のようなものを感じました。
笑顔は、感情の結果であり、原因でもある
心理学の分野では、笑顔は感情の結果であると同時に、感情そのものに影響を与えるという考え方があります。
表情フィードバック仮説と呼ばれる研究では、口角が上がる表情を作ることで、刺激をより「楽しい」と感じやすくなることが示されています。
つまり笑顔は、心が動いた結果として現れるだけでなく、心を整えるための入り口にもなり得る
と考えられています。
(出典:Strack, F., Martin, L. L., & Stepper, S. 1988)
笑顔は、周囲に伝わり、広がっていく
脳科学の研究では、人は他者の表情を見ると、自分の脳内でも似た反応が起こることが知られています。
これは「ミラーニューロン」と呼ばれる仕組みによるもので、誰かの笑顔を見ると、無意識のうちに自分の表情や気分も影響を受けやすくなります。
笑顔が場の空気を和らげ、人を元気にするように感じられるのは、こうした脳の働きが関係している可能性がある
とされています。
(出典:Rizzolatti, G., & Craighero, L. 2004)

第一印象は、表情で決まる
社会心理学の研究では、人の第一印象はごく短い時間で形成され、その多くは言葉以外の情報に基づいて判断されると報告されています。
特に笑顔は、
- 親しみやすさ
- 信頼感
- 安心感
と強く結びついて評価されやすいことが分かっています。
マナー研修の冒頭で、まず「笑顔」が語られる理由も、ここにあるのかもしれません。
(出典:Willis, J., & Todorov, A. 2006)
「笑う」という言葉に重ねて
以前、笑顔のファシリテーター研修で、「笑う」という言葉は、花が咲くの『咲く』になぞらえられる
という話を聞いたことがあります。
学術的な語源の断定ではありませんが、内側が整ったとき、花がひらくように、自然と表に現れるもの。
そう考えると、笑顔とは無理に作るものではなく、その人の状態が、そのまま表に出たものなのかもしれません。
父のえびす顔と、受け継がれたもの
3年前に亡くなった親父は、寡黙な人でした。
多くを語る人ではありませんでしたが、とても穏やかな人でした。
晩年、自力で歩けなくなり施設に入っていた頃、職員の方から、こんな言葉をかけていただいたことがあります。
「秋山さんのお父さん、えびす顔で癒されるんですよ」
その言葉を思い出すたびに、もしかすると、笑顔は努力して身につけるものだけでなく、見て育ち、自然と受け継がれていくものなのかもしれないそんなことを思います。
笑顔にも、筋肉と習慣がある
笑顔は心の表れであると同時に、顔の筋肉を使った動きでもあります。
使わなければ衰え、意識しなければ無表情になっていく。
だからこそ、日頃から表情を動かすこと。
声と一緒に、顔も動かすこと。
それは、自分の心と身体を整えることにも、つながっているように感じます。
どうせなら、笑顔が届く人でありたい
コーチとして。
会社で人と関わる立場として。
そして、一人の人間として。
どうせなら、関係する人たちに自分の笑顔が、そっと届く存在でありたいそう思うようになりました。
笑顔は、作法ではなく、影響力。
笑顔力は、頑張って作るものではなく、内側が整ったときに、花が咲くように現れるもの。
偶然にも同じ日に重なった出来事が、今も静かに、自分の中で咲き続けています。
今日も佳き日に
コーチミツル
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参考文献・出典
- Strack, F., Martin, L. L., & Stepper, S. (1988).
Inhibiting and facilitating conditions of the human smile.
Journal of Personality and Social Psychology, 54(5), 768–777. - Rizzolatti, G., & Craighero, L. (2004).
The mirror-neuron system.
Annual Review of Neuroscience, 27, 169–192. - Willis, J., & Todorov, A. (2006).
First impressions.
Psychological Science, 17(7), 592–598.