362.I Remember Clifford と向き合うということ(12月14日 BJO LIVE を前に)

音楽には、長い時間を経ても心の奥で静かに響き続ける曲があります。I Remember Clifford は、自分にとってそのような一曲です。本日12月14日、ビッグバンド、BJO(バードジャズオーケストラ)をバックにこの曲をソロで演奏する機会をいただきました。演奏が間近に近づくほど、この曲と自分のあいだにある時間を静かに思い返しています。


この曲との出会い ― 雨の日の車の中で

I Remember Clifford と初めて出会ったのは、十数年前のことでした。隔週の雑誌Blue Note Selection第7号にリー・モーガン特集の付録CDの中、この曲が収録されていました。当時、私は30数年間トランペットを吹いておらず、広島での単身赴任暮らし、家への移動の車の中でジャズを聴く時間が心の余白を作っている状況でした。当時の自分はジャズは聴くものであって奏でるものではありませんでした。

そんな移動中のある雨の日、フロントガラスを細かい雨粒が叩き、にじんだ街灯がぼんやりと揺れる夕方。カーオーディオから流れてきたのが  I Remember Clifford でした。その瞬間、まるで時間がゆっくりとほどけていくような感覚がありました。静かで澄んでいて、遠くに微かな光が揺れているようなメロディ。その美しさに引き込まれ、急いで曲名を調べ、そして何度も繰り返し聴き続けました。(リー・モーガンの演奏最高ですので、ぜひ聴いてください。)ただ、その頃の自分には、この曲を自分が演奏する日が来るとは全く思っていませんでした。

振り返れば、あの雨の日に出会った一曲が、十数年をかけて静かに自分の中で育ち、今ステージに立つ自分へとつながっています。


クリフォード・ブラウン ― 音に宿る人柄

I Remember Clifford は、若くして亡くなった天才トランペッター、クリフォード・ブラウン(Clifford Brown 仲間は親しみを込めてブラウニーと呼んでいました。)に捧げられた曲です。彼は圧倒的な技術を持ちながら、それ以上に温かい人柄で多くの音楽仲間に慕われていました。誠実で、謙虚で、優しく、初心者にも分け隔てなく接する人物だったと語られています。彼の音色には、そんな人柄がそのまま宿っていました。そして何よりクリフォード・ブラウンは生涯を通してトランペット一筋の奏者でした。


ベニー・ゴルソンが曲に込めた想い

作曲者のベニー・ゴルソンは、ブラウンと同じフィラデルフィアで活動した同世代の仲間でした。1956年、ブラウンが交通事故で亡くなった翌朝、ゴルソンは悲しみの中でピアノに向かい、ほとんど一息にこの曲を書き上げたと言われています。

彼は後に、「この曲は、彼への思い出がそのまま音になったようだった」と語りました。友情と敬意と喪失。そのすべてが静かに流れ込んだ曲です。


歌詞に流れる“生き続ける記憶”

今日の演奏では唄はありませんが、I Remember Clifford の歌詞は、クリフォードが“忘れられない存在である”という強い確信の上に成り立っています。彼の音色は心に残り続け、美しいフレーズは聴いた人の中で受け継がれ、記憶は人から人へと伝わり、時代を越えて生き続ける。まるで今も隣にいるかのように彼の存在を感じる瞬間があると歌われています。

それは悲しみよりも、むしろ「生き続ける魂」を静かに描いた歌です。


12月14日、この曲を吹くということ

雨の日の車の中で初めて聴いた時、ただただ「美しい」と感じた一曲。その後、時間をかけて自分の中に根を張り、偶然のように出会った曲が、十数年後に自分の手の中に戻ってきました。ビッグバンドを背にこの曲を吹くということを思うと、技術や表現以上に“この曲を大切に扱いたい”という気持ちが湧いてきます。

I Remember Clifford に込められた優しさ、敬意、そして記憶の静かな光。それらを損なわないように、自分なりの想いを添えて、12月14日のステージに臨みたいと思います。

彼は、雨の日に友人の奥さんの運転する自動車事故で25歳と言う若さで亡くなりました、広島から松江に向かう雨の日の車の中で初めて聞いたこの曲は、自分とクリフォードブラウンと結びつけるのにふさわしいシチュエーションだったのかもしれません。

今日はトランペット一筋だったクリフォードブラウン(ブラウニー)への哀悼の意を表しフリューゲルホーンは使わずにトランペットの演奏で届けたいと思います。

また、間奏からの後半は、BJOの指導もしていただいておりますが自分の師匠であります島根が生んだトランペッター熱田修二師匠にアレンジしていただき、カデンツァなど挿入させていただきました。

そして、この曲を最高の演奏で届けていた自分が尊敬する今は亡きトランぺッターロイ・ハーグローブ(享年49歳)のエンディングコードを少しばかりですが5音ほど入れたいとも思っています。

自分が小学三年生のころビッグバンドが学校にやってきました。そのきらびやかな演奏に魅了され、音楽のすばらしさを心に刻み、今ここにおります。

今日のバードジャズオーケストラの演奏が、音楽を始めたり復活したり、そんなあなたの新しい出会いと出発のきっかけになると嬉しい限りです。


最後に、ひとつの問いを

あなたの人生の中にも、時を重ねても心に残り続ける“特別な曲”や“特別な人”がいるのではないでしょうか。その存在は、今のあなたのどこに息づいているでしょうか。

(参考)I Remember Clifford の歌詞の構成

🌟1. クリフォードの才能と優しさへの敬意

歌詞では、彼の演奏の美しさだけでなく、「人としての温かさ」「紳士的な性格」が強調されています。

🌟2. 早すぎる死への哀しみ

25歳で事故死したことへの衝撃や「なぜ彼が?」という思いが、静かで落ち着いた言葉で綴られています。

🌟3. 音楽は永遠に残る

肉体は失われても、「彼のサウンドと魂は私たちの中に生き続ける」という希望に満ちた視点が、歌全体を優しく包みます。

🌟4. 回想の語り口

“Remember” という言葉が象徴するように、歌は「過去を懐かしむ」というより、失われた宝物を大切に抱くような語り方をしています。

“I know he’ll never, ever be forgotten…”
(彼のことは、決して、決して忘れられないだろう…)

今日も佳き日に

コーチミツル

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