大谷翔平選手の「記録」と「記憶」から感じたこと
ドジャースの大谷翔平選手の活躍は、華やかな“記録”としても、心に深く刻まれる“記憶”としても輝いています。
ただ、今日のテーマはそんな大谷選手のような壮大な話ではなく、もっと身近な――**自分自身の「記録」と「記憶」**のことです。
20年前の手帳を読み返してみて驚いたこと
自分は20年ほど前、約10年間にわたってシステム手帳にToDoや日々の出来事を細かく書き込んでいました。
最近、その手帳を久しぶりに開いてみたのですが、驚くほど“覚えていないこと”だらけでした。
「この人、誰だっただろう…?」
「本当にこんなことがあったんだろうか…?」
当時は大切だと思って書き留めていたのに、記憶の中からすっかり抜け落ちています。
けれど、読み返しているうちに、こんな思いが湧いてきました。
覚えていなくても、確かにあの日々は自分をつくっていた。
■ なぜ人は覚えていられないのか?
人が多くの出来事を覚えていられないのは、欠点ではなく“脳の自然な働き”だとされています。
ハーバード大学の心理学者ダニエル・シャクターは、
「脳は必要なものを残し、不必要なものを整理する仕組みを持っている」
と述べています(1999年)。
また、カリフォルニア大学のロバート・ビョークは、
「思い出せないのは消えたのではなく、使われない情報が奥にしまわれただけ」
という理論を示しました(1989年)。
脳は、生きるうえで必要なものを優先的に残すため、
平凡な日常の多くは自然と薄れていくようです。
■ 感情が動いた出来事だけ記憶に残る理由
一方で、強い感情を伴った体験は記憶に刻まれやすいと言われています。
脳科学者ジェームズ・マクガフ(カリフォルニア大学アーバイン校)は、
「感情が高ぶると、記憶を司る“海馬”の働きが強化される」
という研究を発表しています(2000年)。
だからこそ、
- 強い感動
- 怒り
- 悲しみ
- 驚き
こうした出来事は鮮明に残る一方、
淡々とした日々はやわらかく霧のように消えていくのだと言われています。
■ 細胞が入れ替わっても、なぜ記憶は残るのか?
身体の細胞は周期的に入れ替わっています。
にもかかわらず、記憶はしっかり残っています。
この理由について、ノーベル賞受賞者のエリック・カンデル(コロンビア大学)は、
「記憶は細胞そのものではなく、細胞同士の“つながり方(シナプス)”として保存されている」
と述べています(2001年)。
また、スウェーデン・カロリンスカ研究所のスパルディングらの研究(2013年)では、
成人後も海馬で神経細胞が一定数生まれ続けていることが明らかにされました。
つまり、
細胞が変わっても“つながりのネットワーク”が維持されるため、記憶は残る。
これが、長い年月を経ても思い出せる記憶がある理由のひとつだと考えられています。
■ 忘れたはずの出来事が、自分の性格や考え方をつくっている
「覚えていないのに、どこか自分の中に残っている気がする」
そんな感覚をもつことがあります。
神経科学者アントニオ・ダマシオ(南カリフォルニア大学)は、
「経験は“身体が覚えている記憶(身体化された記憶)”として蓄積される」
と述べています(1994年)。
たとえば、
- 人との接し方
- 価値観
- 判断のクセ
- 直感
- 無意識の安心・不安
こうしたものは、日々の体験の積み重ねから生まれると言われています。
20年前の手帳に書かれていた“覚えていない出来事”も、
今の自分の言葉づかいや考え方、行動の土台を形づくる材料になっているのだと思います。
■ 記録とは、未来の自分への“手紙”のようなもの
記録は、ただ事実を残すためのものではありません。
忘れてしまった過去の自分に、
未来の自分がもう一度出会いに行ける“手がかり”になります。
昔の手帳を開いたときの、あの小さな驚きや温かさは、
記録という贈り物がくれた再会の瞬間だったのだと思います。
この記事を読んでくださっているあなたへ、そっと問いを置いて終わりたいと思います。
未来の自分に残したい「記録」は、どんなものでしょうか?
そして、あなたの“記憶の奥”には、どんな日々が静かに眠っているでしょうか?

今日も佳き日に
コーチミツル
【本文中に挿入した内容の出所】
- ダニエル・シャクター(ハーバード大学)『記憶の七つの罪』(1999年)
- ロバート・ビョーク(カリフォルニア大学)忘却と想起の理論(1989年)
- ジェームズ・マクガフ(カリフォルニア大学アーバイン校)感情と記憶に関する研究(2000年)
- エリック・カンデル(コロンビア大学)シナプスと記憶に関する研究(2001年)
- スパルディングら(カロリンスカ研究所)成人の海馬神経新生研究(2013年)
- アントニオ・ダマシオ(南カリフォルニア大学)『デカルトの誤り』(1994年)
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