ハーンが残した、ひとつの言葉
真冬に季節外れの蚊の話をして申し訳ありませんが、ハーンは「日本の蚊になりたい」と語った人でした。
それは、奇をてらった言葉ではなく、彼の生き方そのものを表す言葉だったのだと、今は感じています。
“I want to become a Japanese mosquito.”※
(私は日本の蚊になりたい)
この短い言葉の中に、ハーンの日本へのまなざしが凝縮されているように思います。

西洋と日本、蚊に向けられたまなざしの違い
西洋において蚊は、病を運び、不快で、排除されるべき存在です。
マラリアやデング熱などの感染症のリスクもあり、蚊は「命に関わる危険な存在」として扱われてきました。
一方、日本では、蚊を「完全に排除するもの」とはしてきませんでした。
蚊遣り火があり、蚊帳があり、蚊の音を季節の風物詩として受け止めてきました。
この違いそのものが、ハーンを強く引きつけたのだと思います。
蚊帳は世界にもあるが、日本の蚊帳は少し違う
実は、蚊帳そのものは日本だけのものではありません。
アフリカや東南アジア、南米など、蚊の多い地域では、今も蚊帳が広く使われています。多くの場合、それはマラリアなどの感染症から命を守るための「防疫用具」です。中には、殺虫成分を染み込ませた蚊帳もあります。
しかし日本の蚊帳は、少し性格が違います。
日本の蚊帳は、蚊を完全に遮断し、殲滅するためのものではありません。
人はその内側で眠り、
蚊は外側にいる。
命を奪うのではなく、
距離を取って、ともに夏を過ごす。
ここには、世界的に見てもあまり例のない、
「排除ではなく、共に生きるための工夫」
が息づいているように思います。
蚊帳という「殺さない共存の知恵」
蚊帳は、蚊を殺す道具ではありません。
排除ではなく、棲み分け。
拒絶ではなく、距離感。
この「殺さずに守る」という姿勢こそ、日本人の自然観の表れであり、ハーンが深く心を打たれた理由だったのだと思います。
蚊に、自分を重ねたハーンのまなざし
小さく、名もなく、誰にも気づかれなくても、確かにそこに在る存在。
主張せず、争わず、ただ巡りの一部として生きる。
その在り方に、ハーンは自分自身を重ねたのではないでしょうか。
だからこそ、
「日本の蚊になりたい」
という言葉が、生まれたのだと思います。
墓前で刺された、ひとつの出来事
そんなハーンにまつわる、印象深い話を聞きました。
NHKドラマ『ばけばけ』で、ヒロインの夫・ヘブン役(モデル/小泉八雲)を演じる
トミー・バストウさん が、まだ正式に配役が決まっていなかった頃の出来事です。
最終選考を前にして、トミー・バストウさんはハーンの墓前を訪れたそうです。
静かに手を合わせていると、ふいに蚊に刺されたといいます。
その瞬間、その方は
「認めてもらえた気がした」
そう感じたのだそうです。
偶然では終わらなかった「合図」
偶然と言えば、それまでの出来事かもしれません。
しかし、トミー・バストウさんにとっては、紛れもない“合図”だったのでしょう。
後日、本当にその方はハーン役に決まりました。
ハーンが
「蚊になりたい」と語ったこと。
そして、ハーンを演じる人が
「蚊に刺されて認められた気がした」と語ったこと。
この二つが重なったとき、不思議と胸の奥が静かに震えました。
目に見えないところで「受け取る」もの
私たちは、つい目に見える評価や肩書き、数字に安心を求めてしまいます。
けれど、ときにそれとはまったく別のところで、
自分の中だけで「受け取る」瞬間が訪れることがあります。
誰にも証明できない。
説明もできない。
それでも、確かに「届いた」と感じる瞬間。
大きくならなくてもいい
大きくならなくてもいい。
目立たなくてもいい。
ただ、自分の場所に静かに立つ。
蚊帳の内と外のように、
互いの命を尊重しながら生きるという、日本の暮らし。
ハーンが憧れた生き方の輪郭は、今もそこに、そっと息づいているように思います。
今日も佳き日に
コーチミツル
※Source of the idea:
Lafcadio Hearn, Glimpses of Unfamiliar Japan, 1894.
The phrase “I want to become a Japanese mosquito” does not appear verbatim in the original text,
but is a later interpretive expression inspired by Hearn’s view of coexistence
with nature in Japan.
「『私は日本の蚊になりたい』というフレーズは、原文にはそのままの形で登場しませんが、ハーンの日本における自然との共生という見解に触発された、後代の解釈的な表現です。」
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