324.気を遣う人、気を奪う人、気をもらう人(見えないけれど、確かにそこにある“気”の循環)

先日、コーチ仲間の皆さんを自分の地元・松江にお迎えしました。
堀川めぐり、松江城天守閣、松江城周辺の杜の散策、そして小泉八雲記念館と旧居を巡り、
最後は宍道湖を望むホテルでのお茶会とコーチング的ワーク。

最初の世話役会では「どんなところに行きたいか」を一人ひとりに伺い、その後、地元メンバー3人を中心に話し合いながら、観光地の選択や滞在時間、移動時間を考慮して行程を固めていきました。

当日も、散策に思いのほか時間がかかった場面では、メンバーの提案で昼食を早めに取るなど、その場で柔軟に対応することができました。
まるで全員で一緒に旅をつくっていくような、心地よい一体感があったのです。


気を遣うタイプの自分が、なぜ疲れなかったのか

自分は昔から、人の表情や空気の変化をよく感じ取るタイプです。
「この人は今どんな気持ちなんだろう?」
そう考えながら動くので、もてなしや幹事役をすると、
いつも気を張ってしまい、終わったあとにどっと疲れることが多い。
若いころは、イベントの翌日に熱を出すこともありました。

それでも今回の松江案内は、少し違いました。
確かに気は遣いました。
でも、なぜか疲れではなく、充電されたような感覚があったのです。


「気」とは何か ― 心理学から見たエネルギーの流れ

「気」という言葉は、東洋では古くから“生命の流れ”や“活力”を表すものとして使われてきました。
科学的に明確な定義はありませんが、心理学では「心理的エネルギー(mental energy)」という考え方に近いものだと感じます。

アメリカの心理学者ロイ・バウマイスターは、人の意志力や集中力には限りがあり、他者に配慮したり我慢したりすると、それが消耗すると考えました。これは「エゴ・ディプリ―ション理論」と呼ばれています。

ただし近年、この理論には再現性が低いという指摘もあり、トロント大学のマイケル・インズリヒト(Michael Inzlicht)らは、「人は他者に配慮したり感情をコントロールしたりすることで、注意資源やモチベーションが一時的に偏り、集中力や判断力が低下する」というモチベーション・シフト理論を提唱しています。

つまり、“エネルギーが減る”というよりも、心のエネルギーが一方向に集中して、別のことに使えなくなるという考え方です。

たとえばセミナーなどで、一人の人が難しい顔をしていると、全体は上手くいっているはずなのに、その人の表情が気になってしまう。
結果として、自分の意識がそちらに引き寄せられ、終わったあとにどっと疲れる――そんな経験、ありませんか?

これはまさに、「気を遣うことで注意の焦点が偏る」状態なのだと思います。
エネルギーが失われるというより、どこに意識を向けているかで感じ方が変わっていくのです。


気を奪う人・気をもらう人

人の悪口やネガティブな言葉を聞くと、
脳の**扁桃体(へんとうたい)**が“危険”や“不快”を察知すると考えられています。
このとき自律神経が緊張し、体が軽いストレス状態になるため、
結果的に“気を奪われた”ように感じることがあるのかもしれません。

ただ、近年の研究では、扁桃体はネガティブな感情だけでなく、
感動や喜びなどポジティブな刺激にも反応することが分かってきています。
つまり、扁桃体は「悪い気分を作る場所」ではなく、
**“心が大きく動くときに反応する場所”**だと考えられるようになってきています。

一方、共感や励ましの言葉、あたたかい笑顔は、脳の**報酬系(ドーパミン回路)**を活性化すると言われています。
だから、「気をもらう人」と一緒にいると、心も体も軽くなるように感じるのです。

このように、気の流れは“足し算”ではなく“掛け算”のように広がっていく。
誰かのポジティブな気持ちが、周りを明るくし、
その明るさがさらに他の人へと連鎖していく。
この現象は心理学で「エモーショナル・コンタジオン(感情感染)」と呼ばれています。


見えないけれど、確かにそこにある ― 推し活のエネルギー

この“気の循環”は、推し活の世界にもよく表れていると思います。

舞台やライブでアーティストを応援するファンは、「元気をもらった」「パワーをもらった」と話します。
けれど、舞台に立つアーティストも「ファンの皆さんから力をもらっています」と語ることがあります。

この双方向のエネルギーのやりとりこそ、「気の循環」そのもの。
見えないけれど、確かにそこにある。

神経科学では、人が他者の感情や動きを感じ取るとき、脳の「ミラーニューロン」という神経が働くと考えられています。
演者の情熱が観客の脳に共鳴し、観客の拍手や声援が再び演者を励ます。
そんな循環が、会場全体を包み込む“場”をつくるのだと思います。

さらに、音楽やリズムに合わせて体を動かす「リズム同期」は、参加者の一体感を高めることが知られています。
あのライブ会場特有の“空気の振動”には、確かに理由があるのです。


“気”は波動であり、共鳴であり、人をつなぐもの

誰かを応援する気持ち、誰かを思う気持ちは、目には見えませんが、確かに相手に伝わっていくものだと思います。

たとえ離れていても、「頑張ってほしい」という想いが相手の表情を変えることがあります。
それは、“気”が波のように、波紋のように伝わっていくからかもしれません。

量子力学の世界では、「観察が現象を変える(観測者効果)」という考え方があります。
物理的な世界でも、意識や存在が影響を与える可能性があると考える人もいます。
この視点から見れば、「気」は単なる比喩ではなく、人と人をつなぐ“場(フィールド)”のエネルギーとしても捉えられるのではないでしょうか。

東洋思想が語ってきた「気」という考え方と、現代の科学が少しずつ近づいているように感じます。
それは、目には見えないけれど確かにあるものを、それぞれの言葉で表そうとしているだけなのかもしれません。


気を交わすという生き方

気を遣う、気を奪う、気をもらう。
そのどれもが、見えないけれど確かに存在する“気”の流れの中にあると思います。

けれど本当に大切なのは、
「気を交わす」こと。

お互いに与え合い、支え合い、
その瞬間ごとにエネルギーが増えていく。

推し活でも、仕事でも、家族でも、
誰かの笑顔が、自分のエネルギーを照らしてくれる。

あなたは今、どんな“気”を交わしていますか?
今日、あなたの周りには、どんな気の流れがありますか?

今日も佳き日に

コーチミツル

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