318.「弱さを見せる勇気と安心の場」(コーチングにおけるvulnerabilityと心理的安全性 )

「弱さ」と「安心」は矛盾しない

先日のICFコアコンピテンシー※セミナーで印象に残った言葉が2つあるうちのもう一つ、
それは “vulnerability(ヴァルネラビリティ)”――「弱さを見せること」。

一見、弱さを見せることは「信頼を失うこと」と思われがちです。
けれど実際には、弱さを見せることこそ信頼を生み出す第一歩です。
そして、この「弱さを見せる勇気」が育むのが、心理的安全性(psychological safety) です。

※ICFコア・コンピテンシー:国際コーチング連盟が定めた、プロフェッショナル・コーチに求められる8つの能力基準。


vulnerabilityとは何か

英語の vulnerable は「傷つきやすい」「無防備な」という意味を持ちます。
心理学者ブレネー・ブラウン博士は、vulnerabilityを次のように定義しています。

「不確実性・リスク・感情的なさらけ出しを受け入れる勇気」

つまり、「完璧でない自分」を隠さず、ありのままの姿を見せること。
それは“弱さ”ではなく、“自分を見せる勇気”なのです。

コーチングにおいて、コーチが「できていない部分」や「迷い」を隠さず示すと、クライアントは安心します。
「この人の前なら、自分も本音を話していい」と感じられる――
そこに、共感と信頼が芽生えます。


Googleが見つけた「心理的安全性」の力

Googleは2010年代に、「最も成果を上げるチームはどんな特徴を持つのか」を探る大規模調査「Project Aristotle」を行いました。
180以上のチームを分析した結果、最も重要な要素として浮かび上がったのが――
“心理的安全性(psychological safety)” でした。

心理的安全性とは、

「このチームでは、失敗しても責められない」
「自分の意見を安心して話せる」
「助けを求めてもいい」

とメンバーが感じられる状態のことです。


あるリーダーの「vulnerability」がチームを変えた

Project Aristotleの研究チームが印象的なエピソードとして紹介したのが、あるチームリーダーの変化でした。

当初そのチームは、誰も本音を言わず、失敗を恐れ、会議では沈黙が続く状態。
リーダー自身も「強くあらねば」と思い込み、常に完璧を装っていたといいます。

ところが、ある日そのリーダーが自らの病気の経験を率直に話しました。
「本当は不安だったこと」「助けが必要だったこと」――
その“vulnerability”の告白をきっかけに、チームの空気が一変したのです。

メンバーは「この人でも悩むんだ」「弱さを見せてもいいんだ」と感じ、
互いにサポートし合う文化が自然と生まれたと言います。

この事例は、vulnerabilityが心理的安全性を高める鍵であることを示しています。


🔗コーチングとの共通点

コーチングの現場でも同じことが言えます。
クライアントが心を開くためには、まずコーチ自身が“安全な存在”であることが大切です。
その安全を感じさせるのが、vulnerability――つまり、コーチが自分の人間らしさを見せることです。

コーチが

「自分も似たようなことで悩んだことがあります」
「完璧な答えはまだ見つかっていません」

と語るとき、クライアントは「ここなら話せる」と感じます。
この瞬間、心理的安全性のスイッチが入るのです。


vulnerabilityと心理的安全性の関係

両者の関係をまとめると、次のようになります。

要素意味コーチングでの役割
vulnerability自分の弱さ・未完成さを見せる勇気コーチが人間味を見せることで、安心と信頼を生む
心理的安全性失敗や不安を出しても責められない状態クライアントが本音を語り、学びが深まる環境を作る

つまり、**vulnerabilityは心理的安全性の「入口」**であり、
心理的安全性はvulnerabilityを「受け入れる土壌」でもあります。
この2つは、相互に支え合う関係にあるのです。


コーチとしての気づき

コーチとしてセッションを重ねる中で、自分自身も「弱さを見せること」に戸惑うことがあります。
けれど、vulnerabilityは信頼を崩すものではなく、信頼を深めるための橋
それを実感できたとき、コーチングはより人間らしく、深い対話へと変わっていきます。

ただ、自分の解釈としては無理して弱さを見せるのではなく、ありのままの自分を見せるという解釈をしています。


あなたは誰に「弱さ」を見せられますか?

vulnerabilityとは、「弱くなること」ではなく、「信じて開くこと」
そして、心理的安全性は、その「信じて開ける場」を育てること。

あなたは今、誰に自分の弱さを見せられますか?
そして、誰の弱さを受け入れられるでしょうか。

その一歩が、コーチングだけでなく、職場や家庭の中にも新しい信頼を育てていきます。

今日も佳き日に

コーチミツル


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