146.忘れること、忘れないこと 〜心の整理と幸せの記憶〜

「忘れたいのに、忘れられない」

「忘れたくないのに、いつの間にか思い出せなくなっていた」

そんな経験、誰しもあるのではないでしょうか。

私たちの脳は、日々さまざまな情報を受け取りながら、必要なものを残し、そうでないものは少しずつ手放していくようにできています。これは脳が私たちを守るための、いわば“やさしいしくみ”です。

けれど自分は最近、「忘れずにいること」が人生にとってどれほど大切かを、あらためて感じるようになりました。

脳はなぜ忘れるのか? 〜エビデンスから見える仕組み〜

私たちの記憶は、海馬(かいば)という脳の器官で一時的に保存され、その後側頭葉の大脳皮質に移されることで長期記憶になります。

けれどこのプロセスで、脳は「これは今後も必要か?」と何度も判断を下しています。

実は、思い出さない記憶は、脳が“不要”と判断して自然に薄れていくのです。

逆に言えば、何度も思い出したり、感情を伴って記憶されたことは、長く残るようになっています。

この現象を「再固定化(Reconsolidation)」と呼びます。

そして、もう一つ大切なこと。

脳は「ネガティブな記憶」ほど強く、長く残す傾向があります。これは、危険から身を守るために必要な働きです。

ですがそれが「苦しい思い出」としていつまでも心に居座ってしまうこともあるのです。

忘れることは、悪いことじゃない

時には、「思い出すとつらくなる記憶」もあります。

そんな記憶は、無理に向き合うのではなく、少しずつ距離を取るのがいいのかもしれません。

実際、近年の研究では、意識的に「思い出さない」選択をすることが、記憶の消去や弱化につながることが示されています(Anderson & Green, 2001年)。

これは「抑制的想起」といって、過去の辛い記憶と上手に付き合うための、脳の大切な機能のひとつです。

でも、「忘れない」ことにも力がある

一方で、感謝の記憶や、自分が誰かに救われた瞬間の記憶、または何かを学んだ体験は、人生を豊かにしてくれます。

心理学では、「ポジティブな自己物語(Positive autobiographical narrative)」を持つ人ほど幸福度が高いことが分かっています。

つまり、自分にとって意味のある過去を、あたたかく思い出すことができる人は、幸せを感じやすいのです。

自分自身、過去の過ちや後悔を経て、ブログでも「それが自分の成長の証だった」と綴ってきました。

(▶︎参考:「二十歳の頃の過ち」https://coach-mitsuru.com/archives/713

傷つけてしまった人への思い、あの時の自分の未熟さ…

それらを忘れずに心に持ち続けることで、「これからの自分はどう生きるか」を考えられるようになったのです。

幸せな人生に必要な「記憶」とは

幸せになるために必要なのは、「何もかも忘れること」ではありません。

むしろ大切なのは、どんな記憶を心に残し、育てていくかではないでしょうか。

感謝されたこと。

大切な人との時間。

誰かに許されたこと。

こうした記憶を忘れないように、大切に抱きしめていくこと。

それは人生を、じんわりと温めてくれる灯火のようなものだと感じています。

「忘れること」も、「忘れないこと」も、

どちらも私たちが前に進むための大切な働きです。

辛い記憶は、無理に思い出さなくていい。

でも、感謝や学びの記憶は、できるだけ忘れずにいたい。

それが、過去と未来をつなぐ“優しい記憶の選び方”なのかもしれません。

今日も佳き日に

コーチミツル

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