そったくの機(き)――外と内が響き合うとき
「そったくの機」という禅語がありますが、自分はこの言葉が大好きです。
卵の中の雛(ひな)が内側から殻を突く「啐(そつ)」と、親鳥が外から殻をつつく「啄(たく)」が一致するとき、命が外の世界へ初めて飛び出す。
これは学びの世界だけでなく、人生のあらゆる場面で「タイミングの一致」がいかに大切かを教えてくれる言葉だと思っていて、子育てをする上で、これからのために本当に大切で良い助言があったとしても、子供に対して響くときと響かないときがあるようにも感じています。自分の経験ですが、子供に対する助言のタイミングが早すぎて伝わらないことが多いように思います。
タイミングは“溢れる”感覚だと思うんです
自分は、タイミングとは例えていうなら「コップに水を注ぎ続けて、あるとき静かに溢れ出す」ようなものだと感じます。
水がこぼれるその瞬間を「偶然」と片付けることもできますが、実はそれまでの積み重ねこそが、本当の意味でタイミングを生んでいるのではないかと。
スポーツに見た“その時”
● 柔道で体験した“自然と動いた”瞬間
高校時代、自分は吹奏楽部に所属していました。
体育の授業で柔道を習うことになり、クラス内で個人戦が行われました。
正直、周りは運動部ばかりで「敵うわけがない」と思っていました。
ところがその個人戦、バリバリの運動部の相手が技を仕掛けようとしたその瞬間、何の計算もなく、自然に身体が動いたのです。
気がつくと、大外刈りがきれいに決まり、一本!
周囲がびっくりして大騒ぎになりましたが、自分自身が一番驚いていたと思います。(笑)
あのときの「考えるより先に動いた感覚」、
あれこそがまさに“タイミングが降りてきた瞬間”だったのだと、今になって思います。
テニスとタイミング:『インナー・ゲーム』から学んだこと
ご存じの方も多いと思いますが、有名な本『インナー・ゲーム』(ティモシー・ガルウェイ著)には、こんな趣旨のことが書かれています。
「頭で考えすぎるとミスが増える。
大切なのは、ボールのリズムを“感じる”こと。
バウンドしてくるタイミングに、自然と身体が合っていくこと。」
この言葉は、スポーツだけでなく、日常にも通じます。
考えすぎず、でも準備を怠らずにいること――それが、タイミングをつかむ極意なのかもしれません。
閾値(いきち)という考え方
心理学や脳科学では、「閾値(いきち)」という言葉があります。
これは、刺激や情報が一定のレベルに達したとき、脳や行動に変化が生じる「限界点」のこと。
何度も繰り返していた行動や練習が、あるとき急に「できるようになる」「わかるようになる」。
この瞬間は、まさにコップから水が溢れる瞬間のようなものです。
この考え方は、学習効果やモチベーションの維持についての研究でも支持されています(※文末参照)。
出会いもまたタイミング?
人との出会いも、タイミングによって生まれます。
心理学の研究(たとえば「ザイアンスの単純接触効果」)によれば、偶然のように思える出会いも、適切なタイミングと回数が重なることで関係が深まりやすくなるとされています。
また、近年の脳科学の研究では、人が「何かを決断するタイミング」や「誰かと気持ちが通じる瞬間」は、外からの刺激(たとえば誰かの言葉や出来事)と、自分の心の状態がうまくかみ合ったときに起きやすいと言われています。
つまり、「出会い」や「心が動く瞬間」も、ひよこが殻を割るときのように、外と内がぴったり重なった“そったくの機”で訪れるのです。
タイミングは育てられる
タイミングとは、奇跡のようでいて、
実は“積み重ね”と“感性”が生んでいるものなのかもしれません。
だからこそ、
・コツコツ続けること
・自分の感覚を信じること
・今を大事にすること
これらが、未来の「その時」をつくるのだと思います。
タイミングを信じて
「今はまだ何も起きていない」ように見えるときでも、
あなたの中の水は、確かに注がれ続けています。
ある日、ふとした拍子に
「今だ」という瞬間が訪れる。
それをつかめるかどうかは、日々の過ごし方にかかっているのかもしれません。
だから、今日も静かに、丁寧に。
自分の“内なる準備”を整えていこうと思います。
明日そったくの機が来るとすればどんなことが起きると最高ですか?

今日も佳き日に
コーチミツル
■ 参考・関連文献
- ティモシー・ガルウェイ著『インナー・ゲーム』
- 小野田博一『脳の仕組みと行動の科学』
- ザイアンス効果(Robert Zajonc, 1968)