
大人になると見えなくなるもの
サン=テグジュペリの『星の王子さま』。
世界中で読み継がれているこの物語には、子どもの純粋な視点と、大人がいつの間にか身につけてしまった価値観の違いが描かれています。
その中でも、特に心に残る言葉があります。
「大切なものは、目には見えない」
大人になると、自分たちは物事を現実的に考えるようになります。
「それで生活できるのか」
「将来、何の役に立つのか」
「そんなことをしても無駄ではないか」
もちろん、自分もそんな判断をすることがありますし現実を考えることは大切です。
しかし、その現実的な考え方が、誰かの大切にしているものを見えなくしてしまうこともあるのではないでしょうか。
飛行機が大好きな少年
先日、自分の職場に小学校低学年の男の子がやってきました。
その子は、飛行機の絵が描かれたTシャツを着ていました。
「かっこいいね。その飛行機は何なの?」
そう声をかけると、自衛隊の基地で開催された航空ショーに行ったときに買ったものだと教えてくれました。
そして、飛行機が大好きなのだと、にこにこしながら話してくれたのです。
実を言うと、自分はそれほど飛行機に詳しいわけでも、強い興味があるわけでもありません。
それでも、その子の話を聞いている時間は、とても楽しいものでした。
なぜだろう。
あとになって考えてみると、一つのことに気づきました。
自分は飛行機に興味を持ったのではなく、飛行機が大好きなその子に興味を持っていたのです。
目に見えていたもの、見えなかったもの
『星の王子さま』の「大切なものは、目には見えない」という言葉。
あの少年との出会いを振り返ると、まさにその言葉が思い浮かびます。
目に見えていたのは、飛行機のTシャツでした。
でも、自分が本当に心を動かされたのは、そのTシャツではなく、飛行機が大好きだという少年の気持ちや、夢中になって話す姿だったのです。
好きという気持ちも、喜びも、その人が大切にしている思いも、形として見ることはできません。
けれども、相手に興味を持ち、耳を傾けることで、そうした目には見えないものを感じ取ることができるのではないでしょうか。
目に見えるものをきっかけに、目には見えない大切なものに気づく。
あの少年との何気ない会話には、そんな発見がありました。
興味を持つ相手に興味を持つ
自分たちは、相手と共通の趣味や関心があると会話が弾むと思いがちです。
確かに、共通の話題があれば話は広がりやすいでしょう。
しかし、同じものが好きでなければ、相手を理解できないのでしょうか。
そんなことはありません。
たとえば、音楽に興味がなくても、夢中で楽器を演奏する人の姿に心を動かされることがあります。
スポーツのルールを知らなくても、一生懸命に取り組む人を応援したくなることがあります。
駅伝で毎日一生懸命練習していても、わずか17秒で予選会を通過できない、そんな厳しさを見て
涙することもあります。
大切なのは、相手と同じものを好きになることではありません。
相手が何を大切にしているのか。なぜそれが好きなのか。
そこに関心を向けることなのだと思います。
相手の興味に興味を持つ。
それだけで、これまで知らなかった世界が少しずつ広がっていくのではないでしょうか。
大人の常識が可能性を狭めるとき
『星の王子さま』には、子どもの想像力や感性を、大人が理解できない場面が登場します。
大人は経験を積むほど、自分の知識や常識をもとに物事を判断するようになります。
たとえば、音楽が大好きな子どもがいたとします。
その子が将来、音楽に関わる仕事をしたいと話したとき、
「音楽では食べていけないよ」
と答える大人もいるでしょう。
その言葉には、子どもの将来を心配する気持ちがあるのかもしれません。
実際、音楽の世界で生計を立てることは簡単ではありません。
でも、その子が話したかったのは、職業として成功するための方法だったのでしょうか。
もしかすると、ただ音楽が好きだという気持ちを聞いてほしかっただけかもしれません。
そのとき必要なのは、現実を教えることよりも先に、
「音楽のどんなところが好きなの?」
と尋ねることではないでしょうか。
将来の可能性を考えることと、今その子が感じている喜びを大切にすることは、決して矛盾しないはずです。
理解することと、受け入れること
自分はコーチングを通じて、「受容」について考えることがあります。
相手の考えを理解することと、受け入れることは、似ているようで少し違うと感じています。
理解しようとすることは、相手の考えや気持ちを知ろうとすること。
受容は、たとえ自分とは違う価値観であっても、その人にとって大切なものとして尊重すること。
もちろん、何でも賛成するという意味ではありません。
自分と違う考えを持っていても、その違いを否定せず、相手の存在や思いを大切にすることです。
自分自身、そこまで自然にできているかといえば、まだまだです。
それでも、相手の話に耳を傾け、その人の世界を知ろうとすることはできます。
あの飛行機が大好きな少年との会話は、そのことを改めて教えてくれました。
Inner Will ― 心の中にある小さな芽
自分が構想しているWell-Being Spiralには、Inner Willという概念があります。
それは、自分の内側から湧き上がってくる思いや意志、何かに心が動く感覚を大切にするものです。
あの少年が飛行機のことを話していたときの笑顔。
そこには、誰かに言われたからでも、将来役に立つからでもない、純粋な「好き」という気持ちがありました。
自分は、そのような気持ちの中にInner Willの芽があるのではないかと感じています。
大人がすべきことは、その芽の育つ方向を勝手に決めることではなく、まず、その存在に気づくことなのかもしれません。
そして、その芽を大切に見守ること。
目には見えないInner Willも、相手に関心を向けることで、その存在を感じられるのではないでしょうか。
大切なものを見るために
『星の王子さま』を通じて、改めて考えました。
自分たちは、相手を理解しようとするとき、自分の価値観という物差しを使っていないでしょうか。
役に立つかどうか。
正しいかどうか。
自分に興味があるかどうか。
その物差しを少し横に置いて、相手の世界をのぞいてみる。
そこには、自分の知らなかった景色が広がっているかもしれません。
飛行機に詳しくなくても、飛行機が大好きな少年の笑顔を一緒に喜ぶことはできます。
そして、その喜びに触れることで、自分自身の世界も少し広がったような気がしました。
「大切なものは、目には見えない」
だからこそ、目に見えるものだけで判断せず、その奥にある思いや気持ちに関心を向けたいと思います。
相手の興味に興味を持つ。
それは、相手の可能性を大切にすると同時に、自分自身の世界を豊かにすることでもあるのでしょう。
一人ひとりの心の中にある「好き」という小さな芽が、大切に育まれていきますように。
そして、その芽に気づく温かなまなざしが、誰かの心に届きますように。
今日も佳き日に
コーチミツル
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