629.師匠が吹いたあと、楽器に音は残るのか?

朝日新聞にゆかりのある友人の紹介で、面白い記事を見つけました。

「師匠の吹いた後、楽器自体の音が変わる? 謎の現象を検証実験 国音」

国立音楽大学で、卓越した演奏家が吹いたあとに同じ楽器を元の奏者が吹くと、音が変わるという現象を実際に調べているそうです。

「そんなこと、本当にあるの?」

と思うような話ですが、実際に音を測定すると、高調波成分のエネルギーに変化が見られたとのこと。

まだ、なぜ変わるのかまでは分かっていません。

この記事を読んで、

「そういえば、この前……」

と思い出したことがありました。

師匠とお互いのラッパを吹いてみた

記事を見る2日前のビッグバンドの練習で、熱田師匠とお互いのトランペットを吹いてみる機会がありました。

師匠が知り合いに頼んで改造されたBach(バック)のトランぺットを、

「吹いてみるか?」

と言ってくださったのがきっかけです。

自分もちょうど、ピストンのボタンを超軽量の生和鉄工所のものに替えたところだったので、それならお互いに吹いてみようということになりました。

ただ、マウスピースは、それぞれ自分のものを使いました。

当然、楽器が違うので吹奏感は違います。

ところが面白かったのは、

自分が師匠の楽器を吹いても、自分っぽい音がする。

そして、

師匠が自分の楽器を吹いても、やっぱり師匠っぽい音がする。

ということでした。

マウスピースが自分のものなので絶対ということはないのですが

楽器による違いはあっても、音にはやはり「その人」が出るんだなあ。

と、その時は、それくらいに思っていました。

ところが今回の記事を読んで、もう一つ疑問が湧いてきました。

その人の音の「余韻」のようなものが、楽器にも一時的に残ることはないのだろうか?

音は目に見えないけれど、物を動かす

以前、板の上に砂を載せて音を鳴らすと、砂が動いて美しい模様ができる映像を見たことがあります。

「クラドニ図形」と呼ばれる現象のようです。

音の高さを変えると模様まで変わります。

音は目には見えません。

でも、音は振動です。

そして、その振動は実際に物を動かします。

トランペットも、管の中の空気だけが振動しているわけではなく、金属でできた楽器そのものも振動しています。

そこで素人の自分は考えました。

「師匠がつくり出した振動が、楽器の側にも少し残ることはないのだろうか?」

固体の中でも原子は動いている

トランペットは真鍮という固体です。

でも、小さな世界まで見ていけば、主に銅や亜鉛などの原子からできています。

振動すれば、それらの原子もそれぞれの位置の周りで動いています。

最初、自分は、

「振動によって分子構造のようなものが一時的に変化するのかな?」

と勝手に想像しました。

調べてみると、真鍮の場合は「分子構造」という表現は正確ではないようです。

また、普通にトランペットを吹く程度の振動で、原子の並びそのものが変化するという証拠も見つかりませんでした。

ただ、面白い研究はありました。

金属の世界には、振動を与えることで内部に残った応力を変化させる「振動応力除去」という技術があります。

つまり、

「金属は固体だから、振動させても何も変わらない」

というほど単純でもないようです。

もちろん、工業的に振動を与えることと、トランペットを吹くことでは条件がまったく違います。

ですから、

「師匠が吹いたことで、トランペットの金属内部が変化した」

とは言えません。

今のところは、自分の勝手な仮説です。

人の音は、楽器にも残るのだろうか

今回の記事から分かるのは、

卓越した演奏家が吹いたあと、次の演奏音に実際に変化が観測された。

というところまで。

なぜなのかは、まだ分かっていません。

でも先日の体験を思い返すと、不思議です。

師匠は自分の楽器を吹いても、師匠の音がした。

自分は師匠の楽器を吹いても、自分の音がした。

それほど「その人の音」というものがあるのなら、

その人がつくり出した振動の余韻が、楽器にもほんの少し残ることがあるのだろうか。

科学的にはまだ「?」です。

だからこそ面白い。

今度また師匠に自分のトランペットを吹いてもらったら、その直後に自分でも吹いてみようと思います。

さて、師匠の「余韻」を感じることができるでしょうか。(笑)

追記:先日、演歌のバックバンドとして熱田師匠と一緒に演奏をしましたが、”兄弟船”のラッパの前奏惚れ惚れしました。音がキラキラ飛んで、雪のように降ってくるようでした・・・。


今回参考にした研究

国立音楽大学・三浦雅展氏
「卓越した演奏家の吹鳴による吹奏楽器の状態変化に関する研究」(2024)

卓越した演奏家がクラリネットを吹く前後で演奏音を比較し、高調波成分のエネルギーに変化が観測されています。ただし、変化の原因まで明らかになったわけではありません。

Kausel, Zietlow & Moore
“Influence of wall vibrations on the sound of brass wind instruments”
The Journal of the Acoustical Society of America(2010)

金管楽器の管壁やベルそのものの振動と、楽器の音響特性との関係を調べた研究です。

Vibratory Stress Relief(振動応力除去)に関する材料工学研究

金属に振動を与えることによって内部の残留応力が変化する現象が研究されています。ただし、通常のトランペット演奏でも同様の変化が起きることを示したものではありません。

したがって、

「奏者の振動が楽器に一時的な余韻を残し、それが次の音に影響するのではないか」

というところは、今のところ自分なりの仮説です。

でも、この「?」がいつか解明されたら面白いですね。

この言葉が、必要な人に、必要な時に、届きますように・・・

今日も佳き日に
コーチミツル

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