
庭には、季節ごとに香る木があります。
春は沈丁花。
初夏はくちなし。
秋は金木犀。
いわゆる日本三大香木。
派手ではないけれど、
気づいた瞬間に心を持っていく花たちです。
香りは少し特別です。
嗅覚は脳の大脳辺縁系――
感情や記憶と深く結びつく場所に直接届くと言われています。
だから、説明より先に感じる。
ある香りをかいだ瞬間、
昔の風景がそのまま立ち上がる。
香りは、時間を連れてきます。
今まさに春になり、庭に沈丁花の甘い香りが漂います。
この木は、お袋が好きだった花です。
一時期、雪の被害にあい、庭からなくなっていましたが
数年前、静かに自分が植えました。
お袋には、植えたことを伝えていませんでした。
病気で通院していた頃、
病院に向かう朝、庭に出たときのことです。
「あれ、沈丁花の良い香りがする」
そう言って、日陰に植えたその木に気づいてくれました。
何気ない一言でした。
けれど、その場面は今もはっきり残っています。
亡くなるまでに、二度ほど香りを楽しんだと思います。
あの朝の光、
少しひんやりした空気、
そして、お袋の声。
沈丁花が香るたびに、その時間が戻ってきます。
秋には大人気の金木犀の香りが庭いっぱいに広がります。
こちらもお袋が好きだったので、今年まで剪定を控えていました。
少し懐かしく、少し切ない匂い。
春と秋は、
記憶を運ぶ香りです。
そして今日、くちなしを植えました。
くちなしは6月から7月に咲く初夏の香りです。
家の庭に初めての香りを届けてくれるか
もしかしたら今年は花が咲かないかもしれません。
まだ小さな苗です。
でも、育てていきたい。
沈丁花と金木犀は、
過去を連れてくる木。
くちなしは、
これからの時間を重ねていく木。
庭に、過去と未来が並びました。
香りは主張しません。
ただ、そっと漂う。
だからこそ、深く残る。
今年は咲かなくてもいい。
育てる時間そのものが、
また新しい記憶になる。
あなたの暮らしの中には、
時間を連れてくる香りはありますか。
この言葉が、必要な人に、必要な時に、届きますように・・・
今日も佳き日に
コーチミツル