210.緊張しながら“緩く”いられるという感覚(非日常が日常へと変わるとき)


はじめに:ボロボロでも、やめなかった理由

自分は、毎月1回、地元のジャズセッションに出演させていただいています。
お客さまは食事やお酒を楽しみながら、すぐ目の前で演奏を聴いてくださる──そんな距離感の近い本番です。

このセッションを始めた頃、最初の1年半は本当に思うように演奏できず、悔しさや恥ずかしさでいっぱいでした。
家では吹けていたフレーズが、本番になるとまったく出てこない。
何度も「やっぱり自分には無理なんじゃないか」と思い、やめたくなったこともあります。

それでも続けてこられたのは、
師匠をはじめ、バックで支えてくださるリズム隊の皆さん、そして共にステージに立つ仲間たちという、温かいメンバーの存在があったからです。
失敗しても励ましてくれる、そんな場が自分の支えになっていました。


出雲市でのコンボ演奏で感じた、はじめての感覚

先日、出雲市で開催された文化体験フェスにて、ビッグバンドの演奏とともに、コンボ(シックステットほか)でのステージにも挑戦させていただきました。
このコンボでは、いつも一緒に演奏している師匠ではなく、ビッグバンドの仲間たちと組んでの初めての試みでした。

主旋律やソロを吹く場面も多く、責任が重いことから、当然緊張はありました。
それでも、この日の演奏には、これまでとは少し違う感覚がありました。

緊張しているのに、どこか“緩やか”な感覚。
肩の力が抜けていて、でも決して気が緩んでいるわけではない。
不思議と、自分の音が自然に出てくる──そんな瞬間が続いたのです。


なぜ“緩やか”なのに演奏がうまくいったのか

思い返してみると、その時の自分は、
・自分でテンポを決めてカウントを出し、
・エンディングも自分で締める動作をしながら、
・演奏の流れそのものに主体的に関わっていたように思います。

「任されている」という受け身ではなく、
「自分がこの場を動かしている」という意識。
それが、自分の中にある安心感やリズムにつながっていたのかもしれません。


緊張とパフォーマンスの関係──ちょうどよい緊張とは

緊張と演奏の出来には、実は心理学的にも深い関係があります。

「ヤーキーズ・ドッドソンの法則」という理論によると、
人は“ちょうどよい緊張感”があるときに、一番力を発揮できると言われています。

緊張が強すぎると体が固くなり、
逆に緊張がなさすぎると集中力が足りなくなる。
その中間の“ちょうどよさ”が、ベストな演奏を引き出してくれるのです。

今回のような「緩やかだけど集中できている状態」は、まさにこの“最適な緊張”だったのかもしれません。


「自分で決めて動いている」という感覚

さらに、心理学者チクセントミハイが提唱する「フロー理論」では、
人が深く集中しながら自然体で力を発揮できる状態のことを「フロー」と呼んでいます。

このフローに入るには、

  • 自分に合ったレベルの課題に取り組んでいること
  • その場に明確な目的があること
  • 自分で選んで動いているという実感があること

──こういった条件があるとされています。

自分でテンポを決め、カウントを出し、最後まで演奏を導く。
この主体的な関わりが、結果として“緩やかなのに良い演奏”につながったのだと感じています。


師匠の言葉:「100回の練習より、1回の本番」

自分がずっと心に留めている、熱田修二師匠の言葉があります。

「100回の練習より、1回の本番が大切」

この言葉には、練習では得られない「場の感覚」や「経験の重み」があるという意味が込められているのだと思います。

最初の頃は、この“本番”がとにかく特別で、怖くて、逃げたくなる存在でした。
でも、回数を重ねる中で、本番が少しずつ日常になってきたように感じます。

非日常だったものが、少しずつ自分にとって“当たり前のこと”になっていく。
それもまた、続けてきたからこその変化なのだと思います。


朝自活が教えてくれた、安心の土台

毎朝実践中の「朝自活」もまた、自分にとっての大切な習慣です。
トランペットの練習、畑仕事、朝ごはんづくり──自分のための時間を、もう500日以上積み重ねてきました。

朝のトランペット練習では、
ペダルトーンやリップスラー、E♭スケール練習、曲練習をゆっくり

といった基本的なメニューを、毎日丁寧に続けています。
「これをやっておけば、今日もある程度吹ける」
そんな安心感が、自分の中に育ってきました。

このような日々のルーティンが、緊張を和らげる力になることは、実際に医学的な研究でも示されています。
(※Critchley et al., 2004)


“余裕”の正体とは何か

今回のコンボ演奏で感じた「緩やかさ」の中には、いくつかの積み重ねがあったように思います。

  • 本番の経験を繰り返してきたこと
  • 自分で演奏の流れをリードできたこと
  • 朝のルーティンを通じて、心身が整っていたこと

余裕とは、力を抜いても崩れない“土台”があること。
その土台をつくるには、やはり「続けてきた時間」こそが必要だったのだと、今では思えるようになりました。


自分のリズムで音を重ねる

以前の自分は、「本番=特別=緊張」という図式の中で、力を出し切れずにいました。
でも今は、緊張していても、自分のテンポで音を出せる──そんな瞬間を少しずつ感じられるようになってきました。

人と比べる必要はない。
上手く吹けない日があっても、それもまた自分のリズム。
それを大切にしながら、これからも一歩ずつ、音を重ねていきたいと思います。

そして最後に、こんな問いかけを自分自身にも、そしてこのブログを読んでくださるあなたにもお届けしたいと思います。

あなたは、自分だけの“リズム”を持っていますか?

日々の暮らしの中で、
誰かのテンポに合わせすぎていないでしょうか。
緊張に振り回されすぎて、自分を見失ってはいないでしょうか。

ときには立ち止まり、自分の“音”に耳を澄ませてみる。
その小さな時間が、きっとあなたの歩みをやさしく支えてくれるはずです。

今日も佳き日に

コーチミツル



#緊張との付き合い方 #演奏の余裕 #自分のリズム #朝自活 #ジャズセッション #師匠の言葉 #本番に強くなる #習慣の力 #続ける意味

この記事が気に入ったら
いいねしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!