「弱さ」と「安心」は矛盾しない
先日のICFコアコンピテンシー※セミナーで印象に残った言葉が2つあるうちのもう一つ、
それは “vulnerability(ヴァルネラビリティ)”――「弱さを見せること」。
一見、弱さを見せることは「信頼を失うこと」と思われがちです。
けれど実際には、弱さを見せることこそ信頼を生み出す第一歩です。
そして、この「弱さを見せる勇気」が育むのが、心理的安全性(psychological safety) です。
※ICFコア・コンピテンシー:国際コーチング連盟が定めた、プロフェッショナル・コーチに求められる8つの能力基準。
vulnerabilityとは何か
英語の vulnerable は「傷つきやすい」「無防備な」という意味を持ちます。
心理学者ブレネー・ブラウン博士は、vulnerabilityを次のように定義しています。
「不確実性・リスク・感情的なさらけ出しを受け入れる勇気」
つまり、「完璧でない自分」を隠さず、ありのままの姿を見せること。
それは“弱さ”ではなく、“自分を見せる勇気”なのです。
コーチングにおいて、コーチが「できていない部分」や「迷い」を隠さず示すと、クライアントは安心します。
「この人の前なら、自分も本音を話していい」と感じられる――
そこに、共感と信頼が芽生えます。
Googleが見つけた「心理的安全性」の力
Googleは2010年代に、「最も成果を上げるチームはどんな特徴を持つのか」を探る大規模調査「Project Aristotle」を行いました。
180以上のチームを分析した結果、最も重要な要素として浮かび上がったのが――
“心理的安全性(psychological safety)” でした。
心理的安全性とは、
「このチームでは、失敗しても責められない」
「自分の意見を安心して話せる」
「助けを求めてもいい」
とメンバーが感じられる状態のことです。
あるリーダーの「vulnerability」がチームを変えた
Project Aristotleの研究チームが印象的なエピソードとして紹介したのが、あるチームリーダーの変化でした。
当初そのチームは、誰も本音を言わず、失敗を恐れ、会議では沈黙が続く状態。
リーダー自身も「強くあらねば」と思い込み、常に完璧を装っていたといいます。
ところが、ある日そのリーダーが自らの病気の経験を率直に話しました。
「本当は不安だったこと」「助けが必要だったこと」――
その“vulnerability”の告白をきっかけに、チームの空気が一変したのです。
メンバーは「この人でも悩むんだ」「弱さを見せてもいいんだ」と感じ、
互いにサポートし合う文化が自然と生まれたと言います。
この事例は、vulnerabilityが心理的安全性を高める鍵であることを示しています。

🔗コーチングとの共通点
コーチングの現場でも同じことが言えます。
クライアントが心を開くためには、まずコーチ自身が“安全な存在”であることが大切です。
その安全を感じさせるのが、vulnerability――つまり、コーチが自分の人間らしさを見せることです。
コーチが
「自分も似たようなことで悩んだことがあります」
「完璧な答えはまだ見つかっていません」
と語るとき、クライアントは「ここなら話せる」と感じます。
この瞬間、心理的安全性のスイッチが入るのです。
vulnerabilityと心理的安全性の関係
両者の関係をまとめると、次のようになります。
| 要素 | 意味 | コーチングでの役割 | 
|---|---|---|
| vulnerability | 自分の弱さ・未完成さを見せる勇気 | コーチが人間味を見せることで、安心と信頼を生む | 
| 心理的安全性 | 失敗や不安を出しても責められない状態 | クライアントが本音を語り、学びが深まる環境を作る | 
つまり、**vulnerabilityは心理的安全性の「入口」**であり、
心理的安全性はvulnerabilityを「受け入れる土壌」でもあります。
この2つは、相互に支え合う関係にあるのです。
コーチとしての気づき
コーチとしてセッションを重ねる中で、自分自身も「弱さを見せること」に戸惑うことがあります。
けれど、vulnerabilityは信頼を崩すものではなく、信頼を深めるための橋。
それを実感できたとき、コーチングはより人間らしく、深い対話へと変わっていきます。
ただ、自分の解釈としては無理して弱さを見せるのではなく、ありのままの自分を見せるという解釈をしています。
あなたは誰に「弱さ」を見せられますか?
vulnerabilityとは、「弱くなること」ではなく、「信じて開くこと」。
そして、心理的安全性は、その「信じて開ける場」を育てること。
あなたは今、誰に自分の弱さを見せられますか?
そして、誰の弱さを受け入れられるでしょうか。
その一歩が、コーチングだけでなく、職場や家庭の中にも新しい信頼を育てていきます。
今日も佳き日に
コーチミツル
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