
最近、コメ価格の高騰がニュースでたびたび取り上げられています。農林水産省や農協の責任を問う声も聞かれますが、そうした「誰が悪いのか」という視点に、どこか違和感を覚えていました。
そんなとき、ふと思い出したのが「ソリューションフォーカス(解決志向)」の考え方。かつてTQC活動を通して原因追求型の改善を学んできた自分だからこそ、余計にその違いがはっきりと見えてきました。

原因追求型のアプローチ(TQC)の思い出
自分が若い頃、職場ではTQC(Total Quality Control)活動が盛んでした。不具合が起きれば「なぜ?なぜ?」を繰り返し、フィッシュボーン(特性要因図)を使って原因を掘り下げていく。この手法は、製造や品質管理など、物理的・技術的な課題には非常に有効でした。
例えば今日報道されていた月面着陸に失敗したというニュースも、機械の故障やセンサーの不具合など、技術的な要因が明らかになるケース。そうしたときには「何が原因だったのか?」の追究が的確な対処に繋がります。
人が関わる課題は「ソリューションフォーカス(解決志向)」で
一方で、ヒューマンエラーや制度の問題に対して、同じように「原因は誰だ?」と追及してしまうと、責任のなすりつけや、モチベーションの低下を引き起こすことがあります。
例えば、決算書の計算式を誤って削除してしまい数値が間違っていたとき。TQC的な視点では、「誰が演算式を消したのか」「なぜチェックしなかったのか」と責任の所在を掘り下げる場面がでてくると思います。
でも、ソリューションフォーカス(解決志向)では視点が違います。
「どうすれば今後、同じミスが起きないか?」
「式を保護して削除できないように設定できないか?」
といった、未来に向けた建設的な問いを立てていくのです。
この視点の切り替えが、人間関係もチームワークも、ずっとラクに、前向きにしてくれました。
青木安輝さんとのご縁
こうしたソリューションフォーカスの考え方を、日本で丁寧に広めてこられたのが、青木安輝(あおき・やすてる)さん。
自分にとっては、友達感覚でお話ができるありがたい存在です。
青木さんの伝えるソリューションフォーカスには、「できていること」に光を当て、「すでにある資源」を見つけるという温かさがあります。問題に対して解決の糸口を探す力。これは単なる技法ではなく、生き方そのもののように感じています。
ソリューションフォーカスとは?――問題より「解決」に焦点を当てる考え方
ソリューションフォーカスとは、文字通り「解決(Solution)」に焦点(Focus)を当てるアプローチです。元々は心理療法の現場から始まり、現在では教育や組織開発、コーチングの分野でも広く応用されています。
この手法の特徴は、**「何が悪かったのか」ではなく、「うまくいくためにはどうすればいいか」**を問いかけること。
つまり、原因を深掘りするのではなく、未来の望ましい姿(=解決された状態)を描きながら、そこに近づくための一歩を探すのです。
ソリューションフォーカスの基本的なステップ
- うまくいっている部分に注目する
たとえ問題の真っただ中でも、「例外的にうまくいった場面はなかったか?」と問いかけます。
→「その決算書、先月はうまく作れていたけれど、そのとき何が違ったのかな?」
というように、できていた事実からヒントを探します。 - OKメッセージを伝える「そのままのあなたでOKですよ」という、存在や行動を肯定するメッセージのことです。「今できていること」「うまくいっている点」に目を向け、それを言葉にして相手に伝えます。たとえば、「そんな中でも遅刻せずに出社しているのはすごいことですよね」「工夫しようとした気持ちが、ちゃんと伝わってきます」といったように、今あるリソースや行動を認める言葉です。
- 未来の理想の姿を明確にする(ミラクルクエスチョン)
たとえば、「もし明日、奇跡が起きて問題が解決していたとしたら、何がどう変わっていると思いますか?」という問いかけをします。
抽象的に聞こえますが、これにより“こうなったら良い”という未来像が言語化され、前に進む力になります。 - スケーリング(数値化)を活用する
「いまの状況を10点満点で言うと、どれくらい?」と聞いて、数字で現状と進捗を確認します。
たとえば、「今は5点くらい。でも、先週までは3点だったから、ちょっと前に進んでるね」と、変化を実感することでモチベーションも上がります。 - できること・小さな一歩を見つける
理想に向けて、「今すぐできそうなことは何か?」小さな一歩(スモールステップ)を考えます。
「じゃあ、次回からは演算式を保護してから提出することにしよう」
といった、小さな実践が積み重なって、再発防止につながっていきます。

なぜソリューションフォーカスが人に優しいのか
この手法は、「人を責めない」「過去に縛られない」「小さな成功を積み重ねていく」ことを大切にしています。
誰かの責任を追及するのではなく、みんなで「どうしたらもっと良くなるか」を考える。
そんな前向きな姿勢が、チームの空気も、職場の雰囲気も、ぐっとやわらかくしてくれるのです。
犯人探しではなく、仕組み改善という視点
今話題となっている「コメの高騰」も、制度や仕組みに課題があるのであれば、それをどう見直していくかに焦点を当てる必要があります。
農林水産省が悪い、農協が悪い、といった視点にとらわれず、「どうしたら農家も消費者も安心できる仕組みが作れるか」を考えていくことが、これからの時代に必要な姿勢ではないでしょうか。
手法を使い分ける知恵
TQCのような原因追求型のアプローチが必要なときもあれば、ソリューションフォーカスのように未来に目を向けることが大切な場面もあります。
大切なのは、課題の性質に応じて手法を使い分ける知恵。
問題に目を向けすぎて疲れてしまう前に、
「どうすれば前に進めるか?」
と問い直してみる。
そんな姿勢が、個人にも、組織にも、やさしい風を運んでくれるように思います。
今日も佳き日に
コーチミツル