326.庭に流れる季節 ― ラフカディオ・ハーン『日本の面影』と、堀川で感じた過去と現在を紡ぐ時間

2025年11月8日

朝、庭に出ると、つわぶきの花が咲いていました。
花びらは華やかというよりも、ひそやかで、心の奥に沁みるような黄色。
その静かな光に見入っていると、庭全体がゆっくりと呼吸しているように感じます。

ふと視線を広げると、南天の実が、緑から赤へとゆっくりと色を変えていました。
そのグラデーションが、季節の移ろいと心の変化をそっと教えてくれるようです。

そんなとき、
――先日訪れた、ラフカディオ・ハーン（小泉八雲）旧居の庭のことを想い出しました。
あのとき、自分の目の前にも、まさしく“日本の面影”が流れているのだと感じました。

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記念館で見た“ハーンの息づかい”

あの日は、コーチ仲間と一緒に**小泉八雲記念館と旧居（堀川沿い）**を訪ねました。
最初に立ち寄った記念館では、ハーンやセツが実際に使っていた生活の道具や書籍、手紙などが展示されていました。

一つひとつを眺めながら、百年以上の時を経てもなお、彼の感性が生きていることを感じました。
仲間と静かに言葉を交わしながら、その場の空気に“人の思いが時間を越えて残る”ということを改めて実感した時間でした。

座って庭を眺めたときのこと

その後に訪れたのが、堀川沿いに佇む旧居です。
金木犀の香りがほのかに漂う庭に足を踏み入れ、ハーンがかつて座って庭を眺めたという場所に身を置きました。

目の前には蓮のある池や木々、踏み石があり、風が渡るたびに葉が揺れ、光が水面にきらめきました。
その静けさの中に立ちのぼる香りや音、風の温度――
すべてが時間を越えて、彼とつながるような感覚に包まれました。

“The garden is the soul of the house.
The wooden balcony that overhangs it, and the four rooms whose paper shoji look upon it, make up the whole front of the dwelling.”

（庭は、この家の魂そのものである。
その庭を見下ろす木造の縁側と、障子越しに庭を眺める四つの部屋――
それが家の昼のすべてを形づくっているのだ。）
― Lafcadio Hearn, Glimpses of Unfamiliar Japan (1894)

この一節を思い出しながら庭を眺めていると、ハーンの見た風景と今の自分の視線が、ゆっくりと重なっていくような不思議な感覚に包まれました。
まるで、過去と現在が一枚の風景として紡がれていくように。

自然とともに生きる心

ハーンは『日本の面影』の中で、自然と人とが切り離せない関係にあることを描いています。

“Every morning, with the earliest light, the garden becomes suddenly alive with motion —
the motion of falling water and of darting fish, the circling of birds, the waving of leaves;
and the shadows of all these motions weave upon the paper screens pictures of delight.”

（朝の光が差し込むとともに、庭は急に生命を宿したように動きはじめる。
水の落ちる音、泳ぐ魚のきらめき、鳥の影、揺れる葉の動き――
それらすべての影が障子に映り、生きた絵のように美しい模様を織りなしていく。）

光と影、音と静けさ、動と静。
それらは対立するものではなく、ひとつの“いのちの流れ”として溶け合っています。

ハーンが感じたその世界は、今の私たちの暮らしにも、確かに続いているのだと思います。