イグノーベル賞(Ig Nobel Prize)は、「人々を笑わせ、そして考えさせる研究」に贈られる米ハーバード大学発の科学賞です。
英語の ignoble(不名誉な) と Nobel をかけた名前から「くだらない研究」と思われがちですが、実は funny but thought-provoking ――笑った後に深く考えさせられる研究こそが対象になります。
ユーモアの奥にある真剣さ、そして観察と好奇心の大切さを教えてくれる、世界でもユニークな学びの舞台です。
観察力が生んだ“シマウマ模様の牛”
今年もっとも注目を集めたのは、生物学賞を受賞した日本の研究チームによる「牛をシマウマ模様に塗ると吸血昆虫の被害が減る」という研究です。
野生のシマウマがアブに刺されにくいという観察から、「縞模様が虫を避けているのでは?」という仮説を立て、実験を重ねて効果を証明しました。
化学薬品を使わずに環境負荷を減らせる可能性を示したこの成果は、“よく見る目”が未来を変える好例です。

2025年イグノーベル賞 受賞テーマ(全10件)
授賞式は2025年9月18日、米国ボストン大学で開催され、次の10件の研究が選ばれました。
どの研究も日常の小さな疑問を観察し、仮説を立て、真剣に確かめた成果です。
分野 | 研究内容・受賞者 |
---|---|
航空 / 飛行 (Aviation) | コウモリにアルコールを摂取させたとき、飛行能力とエコロケーション(反響定位)がどう変化するかを調査(Francisco Sánchez ほか)。 |
生物学 (Biology) | 牛をシマウマのような縞模様に塗ると、吸血昆虫から刺されにくくなることを実証(小島智樹さんら日本の研究チーム)。 |
化学 (Chemistry) | 食品にPTFE(テフロン)を混ぜて体積を増やし、満腹感を得られるかをラットで検証(Rotem Naftalovich ほか)。 |
工学デザイン (Engineering Design) | 悪臭のする靴を収納するとき、靴ラックのユーザー体験がどう損なわれるかを工学的に分析(Vikash Kumar ほか)。 |
文学 (Literature) | 35年間、自分の爪の伸び率を記録・分析し続けた研究(William B. Bean)。 |
栄養 (Nutrition) | トーゴのリザード(トカゲ)が、どの種類のピザを選ぶかを実地観察(Daniele Dendi ほか)。 |
平和 (Peace) | 少量のアルコール摂取が外国語を話す能力に影響するかを検証(Fritz Renner ほか)。 |
小児医学 (Pediatrics) | 母親がニンニクを含む食事をした際、母乳の香りや味が赤ちゃんに与える影響を調査(Julie Mennella ほか)。 |
物理学 (Physics) | イタリア料理“カチョ・エ・ペペ”のソースが固まる現象を分子レベルで解明(Giacomo Bartolucci ほか)。 |
心理学 (Psychology) | 「あなたは知的だ」と伝えられた人の自己評価やナルシシズム傾向の変化を分析(Marcin Zajenkowski ほか)。 |
思わず笑ってしまうテーマばかりですが、医療や食品、日常生活に応用できる可能性を秘めています。
「面白い」と「真剣」のあいだに、科学の魅力が詰まっています。
自分が感じた小さな“仮説”
自分も日常で小さな発見をしました。
弱っていたカポックの鉢を、同じ種類で元気な株のそばに移動したところ、数週間で葉がいきいきとしてきたのです。
偶然かもしれませんが、「同じ種類の植物が仲間を励ますように、何らかのシグナルを出しているのでは?」という仮説が浮かびました。
科学的にも、植物は揮発性有機化合物(VOC)や根の分泌物を通じて情報を交換する“ケミカルコミュニケーション”が報告されています。
病害虫に攻撃された植物が周囲に警戒信号を送るという研究もあり、仲間意識とも言える現象が少しずつ証明されつつあります。
観察し、そして“行動”する
イグノーベル賞の研究も、ノーベル賞の大発見も、出発点は同じです。
目の前の出来事をただ眺めるのではなく、「なぜ?」と問い、仮説を考え、実際に試してみる。
その一歩が未来を変えます。
自分はこう考えています。
もしかして? と思ったら、まずアクションを起こしてみること。
それが物であれば小さな検証を、人であれば率直に感想を伝えてみること。
この一歩を踏み出すことで、深い気づきが生まれ、人生はぐっと豊かになる――。
行動して初めて分かることがあり、そこで得た学びはきっと自分を成長させてくれます。
結びに
牛をシマウマ模様にする研究も、カポックの小さな変化も、最初は「ちょっとした違和感」から始まりました。
あなたが最近「これ不思議」と感じたことは何でしょうか。
その小さな気づきと行動が、次のイグノーベル賞級の発見、あるいは誰かの心を動かす一歩になるかもしれません。
観察し、問い、仮説を描き、そしてアクションを起こす――
この流れこそが、人生を面白くする最高の科学だと感じています。
今日も佳き日に
コーチミツル
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