277.時間は心で伸び縮みする

初めての場所で「行き」が長く感じるわけ

初めて訪れる土地では、五感がフル稼働します。景色・音・匂い――すべてが新鮮で、脳が受け取る情報が一気に増えるため、体感時間が長くなると言われています。

脳科学では時間知覚の新規性効果と呼ばれ、実際の研究でも確かめられています。
たとえばプリンストン大学のアダ・ヴァンスタール(Avni N. et al., Journal of Neuroscience, 2012)らの実験では、新しい刺激が多い環境にいる時、記憶が細かく分割されるため「後から振り返ったとき長く感じる」ことが示されています。

旅行の初日を思い出してみてください。


「空港からホテルまで」「初めて歩いた街並み」など、出来事を細かく思い出せることが多いはずです。
これは脳が新しい体験を“たくさんの写真”として記録しているから。
アルバムのページが多いと、その一日が長く感じられるのと同じです。

一方、帰り道は道順も景色も既に知っているため、脳が記録する写真の枚数が減り、短く感じるのです。


退屈な時間とあっという間の時間

退屈な授業や長い会議がなかなか終わらないように感じるのも、時間を意識し過ぎるから。
逆に、楽しいことや夢中になっている作業は時計を忘れさせ、あっという間に過ぎてしまいます。

心理学では注意ゲーティング理論(Zakay & Block, Time and Human Cognition, 1995)で説明されており、集中の度合いが体感時間を左右すると報告されています。


感性のアンテナを磨き続ける

今、自分は日本海を望む高台で仕事をしています。
初めてこの景色を見た時は、海の青さと空の広さに胸が震えました。
けれど最近、少し感動が薄れてきたように感じます。

でも、同じ場所でも天気・日の高さ・風によって表情は毎日違います。
雲が厚い朝、冬の低い太陽、春の海風――どれも一度きりの風景です。

「慣れ」に流されず、その違いを丁寧に受け取ることが、感性を磨くことにつながります。


日常を新鮮に味わう小さな工夫

  • 一瞬立ち止まる:通い慣れた道でも、深呼吸して周りを見渡してみる。
  • 変化を探す:光の色、風の匂い、鳥の鳴き声。昨日と違う何かがきっとあります。
  • 誰かに伝えるつもりで観る:文章や写真にするつもりで見ると、細部が際立ちます。

自分が感じた“今日の新しい一枚”を人に伝えることで、景色も心も再び鮮やかになります。



あなたが最近「慣れてしまった」と感じる風景はありますか?
今日そこに、どんな新しい色や音が潜んでいるでしょうか。


今日も佳き日に

コーチミツル

参考文献

  • Avni N. et al. “Time Perception and Novelty” Journal of Neuroscience, 32(3), 2012.
  • Zakay, D., & Block, R. A. Time and Human Cognition: A Life-Span Perspective. North-Holland, 1995.
  • Wittmann, M. “Moments in Time” Frontiers in Integrative Neuroscience, 2011.

#時間感覚 #五感 #日常を味わう #感性を磨く #日本海の景色

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