物語から始まるお盆の風景
最近聴いているオーディブル作品『准教授 高槻彰良の推察』の中で、助手の深町くんが子どもの頃の出来事が描かれています。
ある夏の夜、「ドン・ド・ドン…」という太鼓の音が遠くから響き、その音に誘われるように歩いていくと、そこには盆踊りの輪が広がっていました。
青い提灯の下、亡くなった方たちが静かに踊っている――。
深町くんはその中に紛れ込み、物語ではそれが後の“特殊能力”につながっていきます。

この「青い提灯」は小説の中だけの演出で、実際のお盆に青い提灯が一般的に使われるわけではありません。現実では、白や赤の提灯が多く、特に初盆には白提灯を掲げる習慣があります。
お盆の由来と意味
お盆は正式には「盂蘭盆会(うらぼんえ)」と呼ばれ、仏教行事として祖先や亡くなった方の魂を供養する期間です。
由来は古代インドの故事にさかのぼり、餓鬼道(がきどう)に落ちた母を救うため、僧侶(そうりょ)や衆生(しゅじょう)に食事を施(ほどこ)したという目連尊者(もくれんそんじゃ)の説話に基づきます。
日本では、この仏教の教えと古来の祖霊信仰が融合し、「お盆はご先祖さまがあの世から帰ってくる期間」という考え方が広まりました。
迎え火と送り火 ― その意味
自分の家でも、毎年欠かさず迎え火と送り火を行います。
迎え火は8月13日の夕方、玄関先で火を焚き、ご先祖さまが迷わず帰ってこられるように道を照らします。
送り火は16日、再び火を焚き、「また来年お会いしましょう」とお見送りする儀式です。
この火は、ただの明かりではありません。
あの世とこの世をつなぐ“魂の道しるべ”であり、家族を迎え、また送り出すための温かい灯りです。京都の「五山の送り火」のように、地域によっては大規模な行事として今も受け継がれています。
盆踊りと提灯の役割
今では夏祭りのような賑やかな雰囲気が強い盆踊りですが、もともとはご先祖さまや亡くなった方を供養するための行事です。
踊りには喜びと感謝の気持ちが込められ、亡き人と生きている人が同じ時間を過ごす場でもありました。
提灯は、家に帰ってくる魂が道に迷わないように照らす役割を持っています。現実では白や赤、絵柄のついたものなど地域や家庭によって様々です。小説に出てくる青い提灯はフィクションならではの象徴的な表現ですが、その役割は現実の提灯と同じく「魂を迎える灯り」です。
昭和と令和 ― お盆の風景の変化
昭和のころ、お盆は多くの職場やお店が休みになり、家族が必ず帰省する時期でした。
- 駅や高速道路は帰省ラッシュで混雑
- 店先には「お盆休み」の札
- 親戚が集まり、墓参りや仏壇へのお参りが当たり前
しかし、令和の今は少し事情が変わっています。
- サービス業や小売業は繁忙期で休みが取りにくい
- ITや外資系企業は世界のスケジュールで動くため、お盆に合わせられない
- 学生も部活や補習で帰省できないことがある
- 休暇をお盆に合わせず、分散して取る人が増えている
「お盆だから必ず帰る」という時代から、「都合の合うときに帰る」という時代へ。
ただ、迎え火・送り火や墓参りといった形は変わっても、ご先祖さまを想う気持ちは今も変わらず続いています。
お盆の“こころ”
今年は、お袋の初盆でもあり、お盆について改めて考えてみたのですが、
お盆は、
- 感謝
- 再会
- 絆の再確認
を象徴する、日本の大切な文化だと思うのです。
フィクションの中で描かれる「ドン・ド・ドン」という太鼓の音や青い提灯の盆踊りも、現実の迎え火や送り火も、その根っこには「大切な人を忘れない」という想いがあります。
今年も火を焚き、提灯を灯し、亡くなった祖先や家族を迎える準備を整える――。
それは、時間も距離も超えて人や魂(たましい)をつなぐ、日本の美しい伝統だと思います。

あなたにとって「お盆」は、誰との大切な時間ですか?
今日も佳き日に
コーチミツル
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